相続した不動産の譲渡所得税は減らせるって知ってましたか?
ここでは相続で得た不動産の譲渡所得税を減らすための方法を説明します。
譲渡所得税を減らすには、経費という形で取得費と譲渡費用を売却金額から差し引くことです。
取得費となるのは登録免許税や不動産取得税などの税金、測量費などです。売買契約書や領収書は取っておきましょう。また、譲渡益が出ると確定申告が必要になるので資料は準備するべきです。
取得費加算の特例という制度もあるので以下で詳しく見ていきます。
目次
相続した不動産の譲渡所得税とはどんなもの?
譲渡所得税は相続を行うにあたって考えなくてはならない一つの大きな問題です。
相続不動産を売却すると譲渡所得税がかかってくる!
人生の中で、相続を経験する機会はそう多くありません。 いろいろ調べて気持ちの準備はしていたとしても、いざ起きたときには想定外のことも起きるので、しばらくは気持ちが落ち着かないものです。
葬儀など目前のやるべきことの処理に手いっぱいになるのはもちろん、税金のことも考えなければならないので大変ですね。
相続で注目されるのはやはり相続税で、多くの人はこれについてはよく調べるのですが、どうしても相続税以外には目が向かないというか、考える余裕がないのかもしれません。
相続した家屋などに自分で住む場合はよいのですが、すでに遠方で家庭を築いている、仕事の関係で実家には住めないという場合は、速やかに相続した不動産を売却することになります。そのまま放置していると管理費や固定資産税など維持費がかかってしまうからです。
利益が出ると譲渡所得税を支払う必要がある
不動産を売却するという行為は基本的に商売として扱われるので、そこから一定の利益を得た場合は、別途それに対応する税金を納めなければなりません。これを「不動産譲渡所得税」といいます。
たとえその不動産の承継につき相続税を納めていても、この不動産所得税は別途支払う必要があるものです。
相続税は国税なので国の収益となり、国民全体がこれを享受しますが、不動産譲渡所得税は実際には国税となる所得税と、地方税となる住民税から構成されているので、一定分は住民税として、より身近な地方自治体の財源となります。
なお、納税は一括して不動産譲渡所得税として納めるので、手間が増えるものではありません。
知っておきたい譲渡所得税の概要
では、その不動産譲渡所得税はどれくらいの金額になるのでしょうか。
不動産を売った場合には買い手から代金をいただくわけですが、この全てにもうけとして税金をかけられるのではありません。
ふだんあまり意識しないかもしれませんが、例えばお客さんからいただく代金を分解して見てみます。代金は全部がもうけではなく、一定の経費分(もうけではない分)と正味のもうけに分けられます。
例えばお蕎麦屋さんがかけ蕎麦一杯700円で販売し、お客さんから代金をいただいても、その700円を得るためには材料などの仕入れ代がかかっているので、正味のもうけは500円くらいとなります。
税金をかけられる対象を「課税標準」といい、これに一定の税率をかけて税額を算出するのですが、元になる課税標準の数字は小さいほど、税額も小さくなります。つまり、必要経費を用いて課税標準を減らせば税金額も減るということです。
不動産譲渡所得税の計算方法
不動産の譲渡の場合に経費にできるのが「取得費」と「譲渡費用」です。
不動産譲渡所得税の計算を式にすると、次のようになります。
譲渡所得税=課税標準×税率
そして、課税される元になる数字の課税標準の求め方は、このようになります。
課税標準=売却金額-(取得費+譲渡費用)
「取得費」については後述しますが、物件を取得した際にかかった費用のことで、その物件の購入代金の他、不動産業者に支払った手数料などを取得費として経費計上することができます。
ただし建物である場合は、購入したときに支払った購入費の全額を取得費に入れることはできません。
購入から時間が経過すると建物の値段が落ちる
建物の場合は経年劣化があるため、購入から年月が経てばその価値はだんだんと減っていきます。価値がなくなった部分まで経費に入れることはできないので、価値の減少分は購入金額から差し引いてやる必要があるのです。
その差し引く分を「減価償却相当額」、あるいは「減価償却分」などといいます。減価償却については比較的複雑な概念になるので、必要に応じて税務署や税理士に確認するとよいでしょう。国税庁のHPの、減価償却についての説明でも確認することができます。
一方「譲渡費用」というのは、今回の売却の際に必要になった経費をいいます。例えば、不動産業者に支払った手数料、売買契約書に貼付した印紙代、抵当権の抹消登記費用、賃借人の立ち退きが必要になった場合はその立退料などです。
これら経費を除いて残った売却金額に一定の税率をかけて税額が算出されるのですが、この税率にも変動があります。詳しい内容については、後述します。
相続不動産の譲渡所得税は取得費によって減税できる
譲渡所得税を減税する方法をご紹介します。
「取得費加算の特例」を利用すれば、相続不動産の譲渡所得税が安くなる
取得費は必要経費として納税者が申請するものですが、取得費として計上するためには、それなりの証拠となるものが必要になります。
例えば、物件を購入したときの金額がわかるものとして売買契約書が必要であり、それがもしなければ、説明資料として売り出し広告のパンフレットなどを利用できます。
不動産業者に支払った手数料があれば、その金額が記載された領収書、登録免許税や不動産取得税などの税金の支払いがあれば、その金額がわかる領収書なども必要です。
さらに測量費を支払った場合は、測量業者に支払った費用がわかる契約書や領収書なども必要です。
確定申告の有無は譲渡益による
確定申告が必要になるかどうかは譲渡益が出るかどうかで変わりますが、譲渡益が出て確定申告をする場合は、申告時の説明のためにこれらの資料を添付する必要があります。
譲渡損が出て利益がないため、確定申告をする必要がない場合でも、後から税務署に説明を求められたり、確定申告を求められたりすることもあるので、そのときに備えて資料を用意しておくのが望ましいです。
さて、取得費というのは物件を手に入れるために支払った費用だということは理解できたかと思います。自分で購入した場合は購入費の一部が認められるわけですが、相続で手に入れた物件の場合はどう考えればよいのでしょうか。
相続物件である場合は、その取得費は被相続人のものを引き継ぎます。したがって、上記で説明した取得費を説明する資料も、被相続人が保管してあるものを探す必要があります。これが意外と盲点となっていて、亡くなった人がどこに保管しているのか、そもそも紛失せずに保管してあるのかもわかりません。
もしどうしても見つからず説明ができない場合には、取得費を売却金額の5%として計上することもできますが、多くの場合はこの計算では税負担が増してしまいます。そのため、手間がかかるものの、譲渡益が説明できる書類を探し出しておく必要があります。
二重で税金を取られないためにも特例を利用する
ここでは「取得費加算の特例」という制度を説明しましょう。相続にともなって相続税を支払っている場合、その不動産について価値の一定分を相続税として支払っていることになります。
そして、その不動産を売った際にまた譲渡所得税を支払うと、同じ一つの不動産について二重で税金を支払うことになります。
この負担を軽減してくれるのが「取得費加算の特例」で、支払った相続税の一定分を、今回の売却の際の取得費に加算できるものです。
取得費に加算できるのは、平成27年1月1日以後の相続の場合には、基本的に次のようになります。
本人の相続税額×相続税課税価格の計算の基礎となった譲渡不動産の価額÷債務控除前の、本人の相続税の課税価格
この制度を利用するには、次の要件を満たすことが必要です。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
取得費に計上できるものには何があるのか学んでおこう
それでは上述した取得費について、具体的にどのようなものが認められるかを確認してみましょう。
- 購入費
- 建築費用
- 不動産業者手数料
- 一定の改良費
- 登録免許税、不動産取得税、印紙税
- 借主を立ち退かせるために支払った立退料
- 土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
- 土地の測量費
- 所有権などを確保するために要した訴訟費用
- 当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の、建物の購入代金や取壊しの費用(おおむね取得から一年以内に解体)
- 物件を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
- すでに締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金(手付流しなど)
以上のようなものが、取得費になります。
(1)購入費
減価償却分は引かれますが、物件を購入したときの購入金額です。
(2)建築費用
こちらも減価償却分は引かれますが、物件が新築の家屋である場合には建築業者に支払った建築費用となります。
(3)不動産業者手数料
購入に際して、仲介を依頼した不動産業者に支払った手数料です。
(4)一定の改良費
物件の価値を上昇させるような、一定の改良費用です。
(5)登録免許税、不動産取得税、印紙税
物件の購入のために必要になった、一定の税金です。
(6)借主を立ち退かせるために支払った立退料
購入した物件に賃借人がいる場合の、立ち退きを依頼したときにかかった立退料です。
(7)土盛り、地ならしをするために支払った造成費用
物件の購入に際して必要になった造成費用です。
(8)土地の測量費
土地の売買のために要した測量費用です。
(9)所有権などを確保するために要した訴訟費用
他の所有権を争う者との訴訟に要した費用です。
(10)当初から土地の利用が目的であったと認められる場合の、建物の購入代金や取壊しの費用(おおむね取得から一年以内に解体)
土地を必要としていたがその上に建物があり、取り壊す必要があった場合のその取壊し費用と建物分の代金です。
(11)物件を購入するために借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始する日までの期間に対応する部分の利子
(12)すでに締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金(手付流しなど)
特に忘れがち、見逃しがちなのが上から6つ目以下の項目です。素人ではなかなか気づかない項目だと思いますが、取得費の性格をいま一度思い出すと、「その物件の購入に際してかかった費用」ですから、言い換えれば、その支払いをしないと物件は取得できなかったと考えればわかりやすいでしょう。
おそらく、その支払いの際に「将来取得費として使えるかもしれない」と予想するのは一般の人は難しいので、領収書などの説明資料を保管していないかもしれません。
相続物件の場合は仕方ありませんが、自身が将来被相続人となって子や孫の世代が不動産を売るときには取得費の説明ができるように、契約書や領収書などは捨てずに保管しておくことが望まれます。
相続時の状況によって異なる譲渡所得税の金額
不動産を相続したからといって、一概に譲渡所得税がかかるというわけではありません。
あなたの状況次第で譲渡所得税の金額も異なる
不動産の売却は家電や衣服などのリサイクルと違って、店頭で即座に売買が完了することはまずありません。
買い手探しに始まって、条件交渉の末、話がまとまれば売買契約を締結。その後、引越し作業などを終えてから、買い手に引き渡されることになります。
つまり、売買契約の成立から引き渡しまでに期間が空くということですが、これが思わぬ展開に進むことがあります。「一寸先は闇」といいますが、例えばこの空白期間に、売主が死亡してしまった場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、被相続人の債務を承継する相続人が、買い手に対して物件を引き渡す債務を負うことになります。そして、その後の譲渡所得にかかる税金の扱いがどうなるかというと、これには二通りの方法があり、どちらかを選択することになります。
相続状況に合わせた方法1
一つは、亡くなった被相続人が譲渡所得税を得たという形にして、被相続人の「準確定申告」で精算する方法です。
準確定申告とは、本来その人が年度末までの所得として翌年3月の所得税の申告期限までにしなければならない確定申告について、年の途中で死亡してしまったためできなくなった場合に、その相続人が代わってする確定申告をいいます。
準確定申告は「相続があったことを知った日から4ヶ月以内」にしなければなりません。申告先は、被相続人の生前の管轄税務署になります。
相続状況に合わせた方法2
もう一つは、対象物件の所有権が相続人に移転したという形にして、相続人の譲渡所得として申告する方法です。
被相続人の準確定申告の方法を行う場合には、被相続人の居住用財産の売却であるとして3000万円の特別控除が使えることがありますが、相続人の確定申告で対応する場合には、本人の居住用財産でないと特別控除が使えないなどの違いが出てきます。
相続で承継される不動産資産は、複数の相続人がいる場合には分割して利益を取り分ける必要が出てきます。
相続事案でわかりづらいのが、民事上(民法上)の法律と税法上の扱いが複雑に交錯する場合があるということです。
民法上は、不動産も含めて物に対する権利の設定は、特に争いがなければ当事者どうしの話し合いで決着がつくのですが、税金対策としてはそれが有利になったり不利になったりと本人らの意図しないところで動いてしまうことがあります。ここまで想定して立ち回るのは、素人ではなかなか難しいのが実情でしょう。
相続の負担例
例えば相続で承継した自宅があるとして、自宅で父親の面倒を見てきた長男と仕事の関係で遠方で暮らしている次男が相続人になったとします。
ここで、家を売却して換価し、その売却代金を相続人で分配する換価分割をする場合、長男と次男がそれぞれの権利分の代金をもらい受け、それぞれの立場で計算したうえで、必要があれば譲渡所得税の支払いが必要になります。
ここで、立場によって使用できる特別控除が異なることがあります。長男は対象物件に住んでいたので、居住用財産の売却にかかる3000万円の特別控除制度が利用できたとしても、次男はその対象になりません。
売却にともなって発生した売却代金を等しく分けても、税務上は次男が大きな納税の負担を負うため家族全体としては一家の財産から税金を取られることになります。
一方、長男が不動産の権利の全てを承継し、その代わりに次男の取り分を金銭で交付する代償分割の場合はどうでしょうか。この場合、次男は不動産の権利を承継しないので、不動産の譲渡所得についての負担はありません。
長男が、対象不動産の税負担を一手に引き受けて不動産譲渡所得税を支払うことになりますが、前述の特別控除制度などをフルに活用して納税負担を0(ゼロ)にすることができれば、長男自身の負担がないのはもちろん、家族全体としても税金の対象になる財産がないことになります。
事案によってどちらが有利か不利かは異なるので、具体的なシミュレーションが必要になります。必要に応じて、税理士やFPなどの専門家に聞いてみる必要があります。
また税金面だけでなく、さまざまな権利義務が絡んでくるので「誰にとって」よいのかをシミュレーションする必要があります。そのため、税務署の担当者では対処できないと思われます。
一定の居住用財産を譲渡された場合に、その売却金額から3000万円を控除できる制度は、利用に必要な諸条件を満たす必要があります。
この特例を受けることだけを目的として住んだ場合や、一時的に居住しただけでは認められないなど細かな要件があります。
譲渡所得税率は被相続人からの不動産の所有期間によって異なる
この記事の冒頭で、不動産譲渡所得税の算出の計算式について、課税標準に一定の税率をかけて税金額を算出すると述べました。その税率はケースによって変わるので、ここで解説します。
不動産の場合、その物件を保有していた期間が長い場合は「長期譲渡所得」として、短い場合は「短期譲渡所得」として考え、前者には低い税率、後者には高い税率を適用します。
これは、保有期間が短い場合は転売目的などが考えられるため、住宅保有を目的にする他の者とは区別して、税負担を上げるという意味があります。
保有期間について、売却する不動産を譲渡した年の1月1日において5年を超えていれば長期、5年以下であれば短期と判断します。
そして、それが相続物件であった場合、保有期間は被相続人の保有期間を引き継ぎます。つまり、被相続人の保有期間と、相続人の保有期間を合算して考えることができるのです。
長期と判断された場合の税率は20%、短期と判断された場合は39%と税率に2倍近い差が出るので、確定申告で物件の保有期間を計算するときには、被相続人の保有期間も合算するのを忘れないようにしましょう。
- 相続した不動産の売却には、譲渡所得税(不動産譲渡所得税)がかかる
- 不動産譲渡所得税は国税となる所得税と、地方税となる住民税から構成されている
- 相続物件の譲渡所得税は、取得費によって減らすことが可能
- 不動産譲渡所得税の税率は、被相続人からの所有期間(長期と短期)によって異なる