専門家監修|不動産売却の必要書類をフェーズ毎に解説!チェックリスト付き
不動産を売却するにあたって、さまざまな書類を集める必要があります。
これらの書類集めは、特に初めて不動産を売却する人にとってハードルの高い作業といえるでしょう。
しかしこれらの書類をしっかり集めることが、これから売却しようとする不動産を正しく理解することにつながります。
その不動産の評価が適切なのか、そして売却を依頼しようとしている不動産業者が信頼の置ける業者なのかを見抜くチェックポイントにもなるのです。
不動産売却が完了するまでは以下の4段階に分けられます。
- 査定(売却相談)時
- 売買契約時
- 譲渡時
- 譲渡時
各段階のフェーズごとに必要な書類を整理して見ていきましょう。
目次
査定(売却相談)時に必要な書類

不動産を売却するには、不動産(土地・建物)の所有者を確認できる資料として、以下のような公的書類が必要になります。
- 登記事項証明書-必須
- 住宅ローン残高証明書もしくはローン返済予定表-必須
- 地積測量図、境界確認書など
- 不動産購入時の売買契約書・重要事項説明書
- 建物の調査報告書(耐震・アスベスト、住宅性能評価等)
それぞれについて詳しく解説していきます。
(1)登記事項証明書-必須
不動産の登記事項を証明する公的な書類です。
その不動産の所在地を管轄する法務局で、土地や建物の「登記事項証明書」を発行してもらい、記載されている内容を確認しておきましょう。
特に相続や住所移転をしている人は、自分の名義になっているか、登録してある住所が現住所になっているかチェックし、必要な手続きについて法務局に相談の上、手続きをしておきましょう。
自分で手続きすることに不安を感じる場合は、司法書士に依頼して手続きを行ってもらってください(その場合、別途費用がかかります)。
(2)「住宅ローン残高証明書」もしくは「ローン返済予定表」 -必須
住宅ローンの返済が全て終わっていない場合、不動産を売却するとき(=買主に所有権を移転するとき)までに、住宅ローンを完済しておくことが条件になります。
そのため、完済したことを証明する書類が必要になります。
また、一般的な住宅ローンでは「抵当権」が設定されており、この抵当権も抹消しておく必要があります。
買主から受領する代金で住宅ローンを完済する予定の方は、事前に住宅ローンを利用している金融機関に手続きを確認しておき、売却を依頼する不動産業者にも伝えておきましょう。
なお、住宅ローンを完済していたとしても、必要な手続きを行わないと抵当権が抹消されません。抵当権が設定されているかどうかは、登記事項証明書で確認できます。
住宅ローンを完済しているにもかかわらず抵当権が抹消されていない場合は、金融機関に問い合わせて必要書類を取り寄せましょう。
(3)地積測量図、境界確認書など-場合によっては必要
測量図には、次の2種類があります。
- 現況測量図:現在の土地の大きさを測定した図面
- 確定測量図:隣地地権者と土地の境界について合意した旨の書類(境界確認書)を取り交わした上で作成した測量図
不動産取引のルール上、測量図がなくても取引することは可能です。
ただ、買主側としては面積が不正確であったり、土地の境界が不明確であったりすると、不安を感じて取引を避ける傾向にあります。
不動産評価を大きく左右する資料として、地積測量図や境界確認書は用意しておきたいところです。
将来にわたって境界に関するトラブルを未然に防ぐことにつながるため、不動産価値を高める(あるいは維持する)のに有効です。
測量図が手元にない場合は、その不動産を管轄する法務局に問い合わせて、測量図が登記されているかを確認してみましょう。
測量図が登記されていたとしても、作成時期が古い場合は、測量精度がよくなかったり、現況と異なる状態になっていたりして、再度測量が必要になることもあるので注意が必要です。
50〜60坪程度の比較的調査のしやすい土地の場合、現況測量だと、15万〜25万円程度の費用がかかります。
ただ、確定測量では近隣地権者との立ち合いや協議が必要になることから、35万〜60万円程度となることが多いようです。
測量は土地家屋調査士という専門の資格を持った人に実施してもらう必要があります。
法務局や売却を依頼する不動産業者と相談した上で、信頼できる土地家屋調査士を紹介してもらうとよいでしょう。
(4)不動産購入時の売買契約書・重要事項説明書-場合によっては必要
不動産を取得したときに売買契約を交わしているのであれば、契約当時の売買契約書や重要事項説明書を確認しておきましょう。
不動産の状況や面積など、詳細なデータが書かれており、査定に使用します。
当時の物件パンフレットなども残っていれば、それらも一緒に用意しておくとさらによいでしょう。物件にどういったアピールポイントがあるかわかります。
(5)建物の調査報告書(耐震・アスベスト、住宅性能評価等)-場合によっては必要
旧耐震基準で建築された建物や、石綿(アスベスト)使用が疑われる建物は、現況建物の調査を実施していたりします。
そういった物件の場合、調査報告書の提示が必要なケースもあります。
「旧耐震基準」とは
1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた建物(旧耐震基準で建築された建物)のことです。
当時の建築法令に適合していたとしても、現在の耐震基準を満たしていない場合、「既存不適格建築物」と呼ばれ、適切な改修を行わないと新たな増改築が認められず、結果的に建物の評価を下げてしまうことになります。
築年数が古いほどアスベストを使用している建材が含まれている可能性が高く、建物解体時にアスベストの飛散防止や廃棄物処分に高額な費用が生ずるため、建物の評価に大きく影響します。
「調査報告書がないとダメ」ということではないのですが、建物の状況を正しく説明することが資産価値を左右するだけではありません。
売却後に買主とのトラブルを回避するための資料として、「耐震診断報告書」や「アスベスト使用調査報告書」がある場合は用意しておきましょう。
また、住宅性能(耐震性や断熱性など)が表示されている評価書や既存建物状況調査報告書といった建物の状況を説明する資料なども、不動産評価に大きく影響します。
もしこれらの資料が手元にあるようであれば、一緒に提示できるように準備しておきましょう。
売買契約時に必要な書類

売買契約時には、以下の書類が必要になります。
- 土地・建物の登記済証(権利証)もしくは登記識別情報-必須
- 印鑑証明書-必須
- 本人確認書類-必須
- 固定資産税納税通知書-必須
- 固定資産評価証明書-必須
- 建築当時の建築確認済証・図面、検査済証-必須
- 管理規約・使用細則(マンションの場合)-必須
- 共益費や維持管理費に関する資料(マンションの場合)
それぞれについて詳しく解説していきます。
(1)土地・建物の登記済証(権利証)もしくは登記識別情報-必須
不動産の所有を証明する書類です。古くは「権利書」とか「権利証」と呼ばれていたものです。2005年(平成17年)から制度が変わり、同年から2007年頃にかけて、「登記識別情報」が以前の権利書のような働きをするようになっています。
なお、権利証や登記識別情報は再発行できません。
もし紛失などで見当たらない場合は、売却を依頼する不動産業者に、権利証(もしくは登記識別情報)がない旨を早めに伝えましょう。
必要に応じた手続きを案内してもらえるはずです。
(2)印鑑証明書-必須
不動産の売却が決まったら、不動産の所有権移転日の3ヶ月前までの印鑑証明書が必要になります。
登録されている住所が現住所になっているかなどを事前に確認しておくと、焦らずに済みます。
(3)本人確認書類-必須
写真のある公的な書類(例えば運転免許証やマイナンバーカード)などで本人確認ができれば望ましいです。
写真のない本人確認書類の場合は、公的な身分証明書が2種類以上必要になります。
(4)固定資産税納税通知書-必須
土地や建物を所有している人には毎年、固定資産税が課税されます。
一般的な不動産売買では、1年分の固定資産税を支払った売主に対して、所有権移転日に応じて日割り精算で買主がその税金の一部を支払う慣例があります。
そのため、直近年度の固定資産税額がわかる「固定資産税納税通知書」を用意する必要があるのです。
もし納税通知書を紛失してしまっている場合は、当該不動産のある市税事務所で固定資産税の税額証明書を発行してもらってください。
(5)固定資産評価証明書-必須
不動産の固定資産税などの税金を算出する際に、「固定資産評価額」が基準として用いられます。
不動産売買などで名義を変える登記の申請の際に課税される「登録免許税」の計算に、この「固定資産評価額」が必要になります。
こちらも管轄の市税事務所で取得することができます。
(6)建築当時の建築確認済証・図面、検査済証-必須
建物を売却するときには、「その建築物が正規の手続きを経て建てられたものであるのか」「その地域で定められた建築基準を満たしているのか」などが、建物評価を大きく左右します。
原則として建物の建築が認められていない地区・地域では、特例手続き(農地転用許可や市街化調整区域内での開発許可など)を行って建築していることがあり、それら資料が残っていることが不動産価格に影響します。
すでに古い建物を解体してしまっているような場合は、以前から建物があったことを証明するために、以前の建物の確認済証や検査済証が必要になることがあります。
もし確認済証や検査済証が見当たらない場合は、その不動産を管轄する行政の窓口(建築指導課など)で、「建築計画概要書」や「建築確認台帳記載事項証明書」などを発行してもらいましょう。
さらに新築後、増改築やリフォームを行っている建物の場合は、それらの設計図書や工事見積書・契約書などが建物の改修履歴を証明するものとなるため、建築に関連する資料は一通りそろえておくとよいでしょう。
(7)管理規約・使用細則(マンション物件の場合)-必須
マンションには管理規約や使用細則といった規定があります。
共有施設(集会所や庭など)の利用や駐車場の関する規定、リフォーム時の届出方法や使用材料の条件などが掲載されていますので、不動産を評価する上で重要な要素です。
もし紛失してしまっていたり、汚してしまっていたりするような場合は、管理会社や管理組合に問い合わせ、早期に取り寄せておきましょう。
(8)共益費や維持管理費に関する資料(マンション物件の場合)-場合によっては必要
マンションの共用部、すなわち建物全体に関する維持管理費用はマンションの全ての住民で負担すべきものです。
これらの費用が適切に支払われているのか、マンション管理における財産は適切に管理されているのかは、マンション物件において重要です。
年度ごとの会計報告書や管理組合の総会資料などはそろえておき、最低限直近年度の資料は提出できるようにしておきましょう。
【注意】
書類の作成にあたり気をつけておきたいこととして、土地と建物は別の不動産であることが挙げられます。権利証や登記識別情報、登記事項証明書は不動産ごとに作成されているので、土地と建物でそれぞれの書類を集めなければなりません。
※ただし、敷地利用権が設定されているマンション(区分所有建物)の場合は、建物のみの権利証(または登記識別情報)となります。
譲渡時に必要な書類

売買契約時には、以下の書類が必要になります。
- 土地・建物の登記済証(権利証)もしくは登記識別情報-必須
- 印鑑証明書-必須
- 本人確認書類-必須
- 住民票もしくは戸籍附票
- 通帳
すでにお伝えした内容と重複する部分は省きますが、解説していきます。
(1)土地・建物の登記済証(権利証)もしくは登記識別情報-必須
売買契約時と同様。
(2)印鑑証明書-必須
売買契約時と同様。
(3)住民票もしくは戸籍附票-場合によっては必要
登記事項の住所と姓が現在の状況と一致しない場合に、移転登記をする際に必要です。
住民票は各市役所や郵送、マイナンバーカードによるコンビニ交付など、戸籍附票は本籍地のある市町村役場でそれぞれ取得できます。
(4)通帳-場合によっては必要
不動産の売買による金銭のやりとりは基本的に銀行口座を介して行われます。その際に、金融機関名、口座番号や支店番号などが必要になります。
売却後(確定申告)に必要な書類

売却後、利益が出た場合は確定申告が必要になります。その際の書類について解説していきます。
- 登記簿謄本(写し)-必須
- 売却時の売買契約書(写し)-必須
- 仲介手数料など、売却費用の領収書(写し)-必須
- 確定申告書(第一表、第二表B様式/第三表)-必須
- 譲渡所得の内訳書-必須
(1)登記簿謄本(写し)-必須
特別控除などの優遇措置を受けるにあたり必要です。各登記所あるいは法務局のオンラインサイトで請求することが可能です。
(2)売却時の売買契約書(写し)-必須
買換え特例などを受ける際に必要です。契約した不動産業者からもらうことができます。
(3)仲介手数料など、売却費用の領収書(写し)-必須
課税譲渡所得を調べる際に必要です。こちらも不動産業者との契約時にもらえます。
(4)確定申告書(第一表、第二表B様式/第三表)-必須
確定申告書は税務署でもらうか、あるいは国税庁のホームページでダウンロードできます。
(5)譲渡所得の内訳書-必須
こちらも税務署か、国税庁のホームページでダウンロードできます。
不動産売却における譲渡所得の計算に必要なので、不備のないように記入しましょう。
必要書類の収集をサポートするのも不動産業者の仕事
このように不動産を売却する際には、さまざまな書類が必要になってきますが、これらの書類が全てそろってからでないと不動産業者に相談できないというわけではありません。
不動産売却を検討するときは、以下のチェックリストを確認しつつ、不足していると思われる書類についてどのように手続きしたらよいのか、またいつまでにそろえればよいのかを不動産業者に相談しましょう。
チェック欄 | タイミング | 書類名称 | 備考 | ||||||||
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□ | 【1】査定時 | 登記事項証明書 | 管轄の法務所で取得 | ||||||||
□ | 住宅ローン残高証明書 | 抵当権が抹消されている方は不要 | |||||||||
□ | 測量図 | ない場合は測量が必要 | |||||||||
□ | 境界確定所 | 境界が確定されていることが望ましい | |||||||||
□ | 不動産購入時の売買契約書 | ||||||||||
□ | 不動産購入時の重要事項説明書 | ||||||||||
□ | 不動産購入時の売買契約書 | ||||||||||
□ | 建物の調査報告書等 | 耐震診断、アスベスト調査、建物性能評価書など | |||||||||
□ | 【2】売買契約時 | 身分証明書 | 運転免許証、健康保険証など | ||||||||
□ | 固定資産税納税通知書 | 紛失時は税額証明書を自治体窓口で取得 | |||||||||
□ | 固定資産評価証明書 | 管轄の市税事務所で取得 | |||||||||
□ | 建築当時の建築確認済書 | ない場合は管轄の自治体で建築概要書等を取得 | |||||||||
□ | 建築当時の図面 | ||||||||||
□ | 建築当時の検査済書 | ||||||||||
□ | マンション管理規約・使用細則 | マンションの場合 | |||||||||
□ | マンション共益費・維持管理関連資料 | マンションの場合 | |||||||||
□ | 【2】売買契約時/【3】譲渡時 | 権利証・登記識別情報 | 紛失時は別途手続きが必要 | ||||||||
□ | 印鑑証明書 | 自治体窓口で取得 | |||||||||
□ | 【3】譲渡時 | 住民票もしくは戸籍附票 | 登記事項の住所と姓が現在の状況と一致しない場合 | ||||||||
□ | 通帳 | ||||||||||
□ | 【4】売却後 | 売却後の売買契約書 | |||||||||
□ | 仲介手数料など、売却費用の領収書 | ||||||||||
□ | 登記薄謄本 | 管轄の登記所あるいは法務局のオンラインサイトで取得 |
不動産売却の手続きに慣れている担当者であれば、わかりやすくサポートしてくれるはずです。
どうしても手続きに不安がある場合や、仕事などで忙しくて自らが行政窓口などに出向くことができない場合は、最低限の資料として「権利証(もしくは登記識別情報)」が手元にあるかを確認した上で、信頼できる不動産業者に相談してみることをおすすめします。
不動産を評価する上で、これらの資料が全て有利に働くというわけでもなく、場合によっては資産価値を下げてしまうような情報が掲載された資料となることもあります。
しかし、不動産売却後のトラブルを回避しつつ、その不動産の弱点を踏まえた上での売却計画を不動産業者と立案することが、不動産売却で損をしないための近道です。
良心的な不動産業者であれば、必要書類の収集や必要な手続きについて適切なアドバイスを提示してくれるはずです。信頼できる不動産業者の担当者とあなたで「1つのチーム」という意識を持って、不動産売却という一大プロジェクトを成し遂げましょう。
監修者
大野 光政(おおの みつまさ)
一級建築士、宅地建物取引士、既存住宅現況検査技術者
大金興業株式会社代表取締役。 建築士事務所、不動産業、建設業などの業務をマルチにこなす一方で、建築や設備に関連する資格を多数所持していることを活かし、2006年から生活情報サイト「All About」の公式ガイドとして建築・リフォームなどの記事を執筆。 一般消費者に建築や不動産に関わる話をわかりやすく親しみやすく伝えることをモットーとしている。 ■Webサイト 大金興業株式会社 https://www.daikin-i.com/