不動産売却で確定申告が必要な人は?必要書類やよくある質問まとめ
不動産売却で確定申告が必要になるのはどんな人なのでしょうか。確定申告の期限や必要な書類、手続きの流れなども知っておきたいもの。不動産売却の確定申告でよくある疑問についてもわかりやすく解説します。
目次
不動産売却で確定申告が必要な人・不要な人
不動産を売却した場合には、確定申告が必要になるケースがあります。
まずは、どのような人の場合に確定申告が必要で、どんな人は不要なのかを押さえておきましょう。

不動産売却後に確定申告が必ず必要な人
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合には、税金がかかります。
譲渡所得に対する税金は給与所得などの他の所得とは分けて計算されます。
この計算方法を分離課税といいます。
会社員の場合、給与所得などは会社が年末調整してくれるので自分で確定申告する必要はありませんが、譲渡所得については、自分で確定申告を行うことが必要です。
また、不動産(マイホーム)売却の特別控除や特例を使う場合も確定申告が必要になります。
確定申告が必須ではないが、したほうが損しない人
確定申告は必須ではないものの、したほうが得な人もいます。
例えば、不動産を売却して損失(譲渡損失)が出た場合には、確定申告をする必要はありません。
しかし、売却した年の1月1日の時点で所有期間5年超のマイホームを売却したものの、譲渡損失が出た場合、一定の要件を満たすときは譲渡損失の損益通算・繰越控除ができます(「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」など)。
これは、譲渡損失を給与所得などと損益通算することで、給与所得に課税された税金が戻ってくるというものです。1年で相殺しきれなかった場合は、3年に渡って繰越控除することが可能です。
この特例を使うには、確定申告する必要があります。
つまり、必須ではないものの、確定申告をしたほうがお得です。
不動産を売却した場合には、法務局で所有権移転登記を行いますが、その記録が税務署に伝わります。
そのため、確定申告をしなかった場合には、税務署から譲渡所得の申告についてのお尋ねの文書が送付されてくることがあります。
確定申告が必要かどうかで迷ったなら、お尋ねの文書が届いた時点で、すぐに税理士などの専門家に相談したほうがよさそうです。
不動産売却後の確定申告が不要な人
不動産売却で損失(譲渡損失)が出た人で、事業所得が赤字の人や、年金生活者で所得税を払っていない人、専業主婦で収入がない人など損益通算するものがない人は、特例を受けることもないので、確定申告は不要です。
確定申告はいつまでにすればいいの?

確定申告は通常、2月16日~3月15日に行います。
申告・納付期限が土日や祝日に当たる場合は、翌日になります。
なお、2020年については、新型コロナウィルス感染拡大の影響により、2月17日(2月16日が日曜日だったため)から4月16日までに延長されました。
2020年9月時点で、4月17日以降であっても、確定申告書は柔軟に受け付けるとの措置あり
過去にも、震災など自然災害の被害を受けた地域については、申告期限が延長されたことがあります。ですが、日本全国で期限が延びたのは異例のことです。
確定申告をしないとどうなるの?
期日までに確定申告をしない場合には、税務署からお尋ねの文書が届くことがあります。
譲渡損失が発生していて特例も使わない(確定申告が不要の場合)には、お尋ねの文書に譲渡価格や取得費、譲渡費用などを記入して提出しましょう。
お尋ねの文書が届いたにも関わらず無視していると、税務署の調査を受けることになります。調査を受けると確定申告するよう申告を勧奨されます。それでも申告しない場合には、税務署が税額を決定することができます。
詳しく解説していきます。
無申告だと「無申告加算税」がかかる
期限後申告をしたり、税務署から所得金額の決定の通知を受けたりすると、申告して納める税金のほかに「無申告加算税」が課されます。
無申告加算税は、期限後申告や決定等があった場合には原則として納付する税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%を掛けた金額になります。
ただし、税務署の調査通知を受ける前に自分から期限後申告を行った場合には、無申告加算税の課税割合が5%に軽減されます。
ちなみに、期日後申告であっても下記の要件をすべて満たす場合には、無申告加算税は課されません。
- 法定申告期限から1カ月以内に自主的に期限後申告が行われている
- 期限内申告を行う意志があったものの、下記の(1)(2)に該当する場合
(1)期限後申告で納付する税額の全額を法定納付期限までに納付している
(2)期限後申告書を提出した前日から5年前までの間に、無申告加算税または重加算税を課税されたことがなく、期限後申告の意志が認められる場合の無申告加算税の不適用を受けていないこと
期限内に税金を払わないと延滞税がかかる
税金を納付期限内に納めない場合には、「延滞税」がかかります。
しかも、確定申告が遅れれば遅れるほど、延滞税も多額になる可能性があるのです。
税金の納付期限の翌日から2カ月を経過する日までは原則として7.3%です。
ただし、平成26年1月1日以降であれば、「特例基準割合(※)+1%」と7.3%のいずれか低い方になります。
納付期限の翌日から2カ月を経過した日以降は、原則として14.6%です。
詳細は、国税庁の「タックスアンサー」の「延滞税について」をご覧ください。
特例基準割合とは、各年の前々年の10月から前年の9月までの各月の銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合として、各年の前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合に、年1%の割合を加算した割合をいいます。
税金を払わない場合には、財産を差し押さえられる可能性もあります。不動産を売却したなら、期限までに確定申告をして、納付期限までに税金を支払いましょう。
控除の申告はあとからでもできる
確定申告をすることで、不動産(マイホーム)売却の特別控除や特例を使うことができ、税金の還付を受けられるなどのメリットもあります。申告を忘れたり、遅れてしまったりした場合でも気づいたらすぐに申告しましょう。
なお、繰越控除や税金の還付は、過去5年以内ならば遡って申告することが可能です。
確定申告の必要書類一覧と手続きの流れ
不動産売却後に確定申告するには、どんな書類を揃える必要があり、どんな流れで手続きをすればいいのでしょうか。
確定申告の準備を始める前におさえておきましょう。
必要書類一覧
確定申告をする際には、事前に必要な書類を揃える必要があります。確定申告に必要な一般的な書類には以下のようなものがあります。
書類 | 入手先など | |
---|---|---|
確定申告書 第一表/申告書B | 税務署 | |
確定申告書 第三表/申告書(分離課税用) | 税務署 | |
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】 | 税務署 | |
購入時、売却時の不動産売買契約書 | 自分で保有 | |
登記費用など諸費用の領収書(コピー) | 自分で保有 | |
登記証明書 | 法務局 | |
住民票 | 市町村役場 | |
戸籍附票、戸籍謄本 | 本拠地の市町村役場 | |
源泉徴収票 | 勤務先 |
確定申告書 第一表/申告書B
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r01/02.pdf
確定申告書 第三表/申告書(分離課税用)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/01/shinkokusho/pdf/r01/03.pdf
譲渡所得の内訳書
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/yoshiki/02/pdf/a029.pdf
ちなみに、確定申告の申告書にはAとBがありますが、Bを使います。
購入時と売却時の売買契約書や諸費用の領収書も必要です。
これらの書類は、購入時や売却時に不動産会社や仲介会社から渡されるファイルに入っているので、ファイルを大切に保管しておきましょう。
また、特例を受けるための住民票や戸籍附票・戸籍謄本などを揃える必要があります。
戸籍附票や戸籍謄本は、本籍地の市町村役場で入手できますが、郵送で入手したり、確定申告を税理士に依頼する場合は税理士に依頼して取り寄せたりすることも可能です。
確定申告に必要な手続きの流れ
確定申告は、以下の手順で行います。
- 必要な書類を揃える
- 申告書など申告に必要な書類を作成する
- 申告書と必要書類を提出する
- 税金を納める
申告書を作成する場合は、まず「譲渡所得の内訳書」を作成し、それをもとに「申告書(分離課税用)」を作り、最後に「申告書B」を書くという流れになります。
譲渡所得の申告の仕方は、国税庁のWebサイト「譲渡所得の申告のしかた(記載例)」に詳しい説明があります。
自分で事業をしているなど、確定申告書の作成に慣れた人ならば、そう難しくないかもしれません。ですが、会社員などで確定申告をしたことがない人は、税理士など専門家に頼るのもひとつの手です。
作成した申告書は、必要書類と一緒に提出します。提出は税務署や申告会場に持参するか、国税電子申告・納税システム(e-Tax)からもできます。
ただし、e-Taxを利用するには、事前にマイナンバーカードや利用者識別番号、ICカードリーダライタなどを準備することが必要です。また、e-Taxには添付できない書類は、別途郵送が必要になります。
特別控除は使わないと損する?特別控除の一覧表
売却した不動産がマイホームである場合や、売却後に改めて不動産を購入した(買い換えた)場合には、「特定居住用住宅の買換え特例」や「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」などの特別控除や特例を利用することができます。
特例の詳しい内容は、当サイトの「不動産売却にかかる税金」をご一読ください。
特例や控除は、不動産売却で利益(譲渡所得)が出ている場合に使えるものだけでなく、損失(譲渡損失)が出た場合に使えるものもあります。
これらの特別控除や特例を使うことで、納める税金の金額が安くなったり、税金が還付されたりします。
使わないと損なので、確定申告をして、しっかり控除を受けましょう。
確定申告は税理士を使ったほうがいい?
使わないとNGなどのルールはありません。
ただ、申告書や「譲渡所得の内訳書」など、必要書類には記載事項が多く、不動産売却に関する確定申告の作業は、そう簡単ではありません。
「わからないことがたくさんある」「自分だけでは難しい」と感じた場合は、税理士に依頼することも検討してみましょう。
なお、私たちの誰しもに得意不得意があるように、税理士にも得意な分野や不得意な分野があります。依頼する場合は、確定申告に詳しい税理士にお願いするようにしましょう。
誰に頼めばいいのか見当がつかない場合には、お住まいの都道府県の税理士会に問い合わせるのもひとつの方法です。
その際、「不動産売却の確定申告をしたい」ことを伝え、この分野に強い税理士を紹介してもらうといいでしょう。
確定申告を依頼した際の費用は、その内容によっても異なりますので、問い合わせた際に、どのくらいかかりそうかを聞いてみるといいかもしれません。
不動産の確定申告のよくあるQ&A

申告内容を間違えたことに後から気づいた!
確定申告をしたものの、記載した内容に誤りがあった場合には、基本的に税務署から連絡がきます。もちろん、気づいた時点で自分から税務署に連絡するのがベストです。
自分が間違いに気づかない場合でも、税務署から指摘を受けるケースもあります。
確定申告の期限内に気づいた場合には、改めて申告書を作り、申告期限内に提出します。申告期限後に気づいた場合には、申告した内容を訂正します。
訂正の方法は、税額を実際より多く申告していた場合と、税額を実際より少なく申告していた場合で異なります。
詳しいことは、国税庁のWebサイトで確認してください。
・申告が間違っていた場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/qa/07.htm
気づいたら申告の期限を過ぎていた!
確定申告の期限が過ぎていたことに気づいたら、すぐに申告書を作成し、確定申告しましょう。
確定申告しないとどうなるかは、「確定申告をしないとどうなる?」をご覧ください。
不動産会社の人が確定申告やってくれるって言うけどいいの?
本人に代わって確定申告ができるのは税理士だけです。
不動産会社の人が代わりに確定申告をするのは、税理士法違反になります。
有償で請け負う場合はもちろん、無償であっても税理士法違反で罰則が科されます。
e-Taxってどうなの?不動産の申告にも使っていいの?
国税電子申告・納税システム国税電子申告・納税システム(e-Tax)を使うと、時間や場所を問わず、申告期限内のいつでも、どこからでも確定申告を行うことができます。
日中は仕事などで忙しい人や税務署に出向く時間がない人は、ぜひ活用してみてください。
e-Taxのメリット・デメリットは以下になります。
メリット
特別控除を利用すると還付を受けられますが、e-Taxで申告したほうが、持参した場合や郵送した場合よりも早く還付を受けることができます。
数字を入力すると自動的に計算してくれるので、ミスが減るのもメリットのひとつです。
また、e-Taxでは過去の確定申告書類の電子データを閲覧することもできるので過去に提出した書類の紛失も防げます。
デメリット
e-Taxを利用するには、事前にマイナンバーカードや利用者識別番号、ICカードリーダライタなどの準備が必要です。
準備段階に少々手間がかかることがデメリットと言えるかもしれません。e-Taxを利用する際の事前準備は、Webサイトでご確認ください。
https://www.e-tax.nta.go.jp/start/index.htm
申告書の書き方がわからない!
申告書の書き方は、国税庁のパンフレットやWebサイトに詳しく説明されています。
とてもわかりやすく説明されているので、自分で手続きをしようとしている人は要チェックです。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm#keigenzeiritsu
それでもわからないことがあったり、「自分ひとりでは無理」と感じたりするようであれば、税理士に相談するといいかもしれません。
【まとめ】確定申告は期限内に行いましょう
不動産を売却した場合には、期限内に確定申告を行う必要があります。
申告をしないと無申告加算税や延滞税がかかり、納める税金が増えてしまい、場合によっては、財産を差し押さえられる可能性もあります。
また、特別控除や特例は、確定申告をしなければ利用できませんので、確定申告が必要か否かは、自分できちんと把握しておきましょう。
申告書の書き方がわからなかったり、自分一人では書類を揃えたり、申告書を作成するのが難しい場合には、なるべく早い段階に確定申告の専門家である税理士に相談するのがいいかもしれません。
監修者
末廣 日出則(すえひろ ひでのり)
税理士
岡山県岡山市出身、昭和44年生まれ。上場食品メーカーの経理部、企画開発部を経て、ベンチャー起業へ転職しIPOを担当。これらの経験を活かすため税理士試験を受験し、平成19年税理士試験合格。都内の税理士事務所2ヶ所で実務経験を積み、平成22年4月「末廣日出則税理士事務所」を新宿区西新宿に開設。法人業務を中心に、近年は相続をはじめとする個人・資産税業務に力を入れ、個人から法人まで幅広い分野に対応している。 ■Webサイト 末廣日出則税理士事務所 https://www.suetax.com/