任意売却を始めて売却するまでの流れと期間
任意売却をした後、残債が払えないといった事情で悩んでいる人も多くいます。
残債が時効になることもありますが、現実的ではないので専門家へ相談することが最善手です。
今回は、任意売却後の残債がどうなるのか、どうすればよいかについて説明しています。
目次
任意売却の流れ1:任意売却が開始できる条件を把握する
実は任意売却は誰でもすぐにできるというわけではありません。任意売却を行うためには条件があります。その条件を把握しましょう。
任意売却は住宅ローンの返済を滞納しないと開始できない?
「任意売却」とは、競売とは違い裁判所を介さずに、ローンの債務が残った不動産を(売ってもローン完済の見込がない状況で)売買することです。
不動産業者に仲介してもらって売るため、裁判所からの物件調査が入らず、債務者にとっての精神的負担も軽くなります。
そして、競売ではだいたい売却価格が60~70%になることが多いのに比べて、任意売却はほぼ市場価格に近い金額で売れるため、債権者にとってもより多くの配当を受けられるメリットがあります。
任意売却を始めるタイミングは、実際に滞納してしまってからでなくても構いません。
むしろ、状況が悪化する前に早く着手した方がよいともいえます。
銀行の融資担当者にローンの支払いが苦しいと相談した場合、第一に考えることは返済期間の延長などで月々の負担を軽くする「リスケジュール」ですが、リスケジュールでも対応できないと判断されたときには、任意売却を勧められることも多いといえます。
任意売却を始めるためには債権者の承諾が必要
任意売却した場合、通常は物件を売却したお金で抵当権者への借り入れをすべて返済することはできません。
しかし、任意売却で買い手がつき買主に所有権を移転するためには売主の抵当権を抹消しなければなりません。
そこで抵当権者(債権者)は融資の全額返済がされない状況で抵当権を抹消することを承諾しなくてはならないわけです。
そして、一般の債権者からの借り入れを滞納している人は、多くの場合には税金も滞納しており、県や市などの差し押さえの対象となっていることもあるため、徴税職員に対し差し押さえの取り下げのための交渉も必要となります。
任意売却において厄介なのは、いったん仲介業者が「債権者はA社、B社、そして○○市役所」として交渉を進めたとしても、途中で新たな差し押さえをしてくる債権者が現れたりする点です。
任意売却の場合は滞納している債務の状況を仲介業者が的確に把握していないと、買い手がついたとしても土壇場で新しい債権者が現れて仕切り直しとなり、買い手がキャンセルするなどの危険性があります。
そのため、債務者側も滞納分について隠し事をしないことは当然として、仲介業者に報告し忘れている債務がないように注意しなければならないのです。
通常、債権者となるのは銀行、または銀行のローンが代位弁済されている場合は保証会社ですが、実際にはさらにそこから委託を受けたサービサー(債権回収会社)が直接の交渉相手になるでしょう。
銀行への返済を滞納し始めてから3~6ヶ月くらいの段階で、保証会社がローン返済できない債務者に代わって、銀行に代位弁済するのが通常の流れとなります。
もし債務者が任意売却したいと考えていても、債権者が(抵当権などを消すための)返済額をめぐって同意してくれなかったら抵当権が消えず、そのような不動産は売ることができないため、結局は任意売却ができないことになります。
スムーズに同意してもらうためには、間に入る不動産業者の交渉力が必要不可欠です。
債権者、債務者双方の協力によって初めて成り立つのが任意売却なのです。
弁護士や司法書士に相談しないと、任意売却は開始できない?
銀行から督促などの書類が来るようになると、その内容がよくわからなくて「任意売却するには必ず法律家の手を借りなくてはならないのだろうか?」と思ってしまうこともあるかもしれません。
しかし、弁護士や司法書士などの法律家に相談するべき場合と、そうでない場合があります。
任意売却するシチュエーションにはいろいろあり、他の債務には手をつけず、住宅ローン付きの家だけを売って、全体として返済が楽になればよいということもあります。
その場合はむしろ、法律問題ではなく実務的な売却の問題になるため、良い不動産業者にめぐり合えればそちらに頼むだけで十分に事足りるし、予算的にも法律家に頼む分をカットすることができるわけです。
一方、トータルでの債務がかなり多ければ、すべてを一緒に整理した方がよいと考えられ、自己破産などを選択せざるを得ない場合もあるわけです。
法律家に相談した方がよいのは「他の債務を一緒に整理する」「自己破産する」「売却する前提として相続登記が必要(所有者が亡くなっている)」といった場合です。
相続登記の具体的な手続きは司法書士の領域になりますが、その他のケースは最初から弁護士に相談する方がよいでしょう。
債務整理自体は司法書士でもできるのですが、140万円を超える債務がある債権者については司法書士の代理権がなくなってしまいます。
途中で弁護士にバトンタッチするような事態になると余分な費用がかかることもあるので、1社あたりの債権額が多いようであれば、最初から弁護士に依頼する方が無難といえます。
最初から法律家への相談が必須であることがわかっている場合、相談するタイミングとしては最初からが望ましいといえます。
中途半端に手続きを始めてからというよりは、最初から相談をして、債務全体を見たうえでの適切な流れをつくってもらう方がよいからです。
任意売却の流れ2:競売開始通知が届いてから売却し、引っ越すまでの流れ
任意売却を始める手続きから、売却までの流れ
住宅ローンの返済を滞納すると、最初は「督促の通知」が来ることになりますが、それでも支払いがない場合は、前述のように3~6ヶ月くらいの間に保証会社(※銀行が抱えていることが多い)から「代位弁済の通知」というものが来ます。
住宅ローンを組んだ人は、最初の段階で諸費用として「保証料」というのを払っているはずですが、これはローン返済の滞納があったとき、保証会社が代わりに銀行に返済する手続きをするための手数料ということなのです。
しかし、保証会社が払ってくれたことで債務がゼロになるわけではなく、債権者が銀行から保証会社に移っただけになります。
さらに、代位弁済により獲得した債権はもはや「住宅ローン債権」ではなく、法律的には「保証委託契約による求償債権」というものに変化しています。
そのため、原則、分割弁済は認められないことになるのです。
この段階まで来てもさらに放置を続ければ、債権者はいよいよ競売の準備を始めます。
競売が始まってからでも、法律的には最高価買受申出人が出るまでは、任意売却に切り替えることも可能ですが、債権者が遅すぎるとして承諾してくれない場合もあります。
そのため、いずれにせよ払えないことがはっきりしているのであれば、なるべく早期に任意売却を検討した方がよいのです。
任意売却は表面上は普通の売買と変わりないので、不動産業者と媒介契約をして広告などを出す形で売却を進めていきます。
決定的な違いは、抵当権をもっている債権者に、一部の弁済だけで抵当権を消してもらうなどの不利益を甘受してもらわなければならなくなるため、弁済額の交渉が必要になることです。
もし、複数いる債権者のすべてと金額の折り合いがつけば買主への所有権の移転と、同日に今までついていた抵当権の抹消を行うことになります。
売却してその代金を債権者への支払いに充ててもなお、残債務がある状態なので、債務整理をせずになしにしてもらえるということはありません。
しかし任意売却をしている過程で、弁護士や仲介業者から「1番抵当権者以外にも少しでも配当して今回の任意売却をまとめたいので、利息や損害金をカットしてもらえませんか」と交渉している場合もあります。
そのため、多少なりとも減額されている可能性はあるし、一括返済は不可能ということにより、交渉で分割にしてもらえるケースもあるでしょう。
ただし、それでもなお支払いが不可能であれば、やはり最終的に債務整理をするしかないこともあります。
任意売却後に気になる引っ越しのこと
任意売却の場合、引っ越しのタイミングはいつにすればよいのでしょうか。買い取り希望者の内覧もスムーズにできて売れやすくなるからという理由で、すぐに引っ越した方がいいとも思えるでしょう。
しかし、やはり売れるまでの間の家賃などを捻出することも大変なので、なるべくならぎりぎりまで住み続けたいものです。
法律的には、買主に所有権が移転する「残金決済日」までに引っ越していればよいということになります。
家族4人の引っ越しの費用は10~30万円ほどになるのが一般的ですが、自分で持ち出しをしなくても、債権者が認めれば売却代金から引っ越し費用を出すことが許される場合もあります。
ただし、これについてはあくまで債権者の気持ち次第というところがあるので、当然に認められるわけではありません。
競売開始通知が来てから、競売を開始するまでの流れ
「競売開始通知が届いたら、もうこれで打つ手はないのか…」と思ってしまう人もいるでしょう。
しかし、まだ任意売却に切り替えるための時間はあります。競売が進む際の流れとしては次のようになります。
1. 競売開始決定
裁判所より競売開始の旨が書面で通知されます。この決定が出されると同時に不動産が差し押さえられるので、登記簿を見れば誰もがその状況をわかってしまうことになります。
2. 現況調査
競売開始決定より1ヶ月から2ヶ月ほどたつと、裁判所から「執行官」が来て物件を調査します。これにより、近所に競売の事実が知られてしまうこともあります。
3. 期間入札通知
競売開始決定から約半年で、入札期間や開札期日が通知されます。これが届くくらいまでが、(実務的には)任意売却に切り替える最後のチャンスといえます。
実際に入札が開始してからでは、それを覆すことは債権者側としても非常に難しくなるからです。
4. 物件一般公開
一般公開がされると物件がネット上の競売サイトに詳細とともに公開されます。
5. 期間入札開始
競売開始決定からここまでで、7ヶ月から8ヶ月くらいかかることになります。
6. 開札
開札期日前日までは競売の取り下げが可能というのが法律上の決まりになっているものの、実際には、ここまで来たら任意売却への切り替えは不可能でしょう。
7. 売却許可決定
買受申出人に問題がなければ、裁判所から売却の許可が下ります。
8. 代金納付
代金納付が完了すると、買受人に所有権が移ります。
9. 所有権移転登記
実際に名義を移す手続きを行います。
このように、遅くても『1. 競売開始決定』から半年までくらいを目安に、任意売却に切り替えるかどうかの判断をしなくてはなりません。
本来はできるだけ早めに決断するのが望ましいため、開始してからでは遅いともいえるのですが、ここまでであればぎりぎり間に合うというラインを示しています。
任意売却で売るための手続き上の注意点
任意売却を成功させるためのカギは、債権者との信頼関係の維持、そして任意売却の経験がある不動産業者への依頼です。
早期に決断して債権者との連絡をしっかり取り、売却価格からできるだけの返済をする意思がある旨を示すこと、そして、通常の売却と異なるノウハウをもっている業者が、債権者側への交渉をできることが、スムーズな売却につながります。
債権者側としてもある程度競売の手続きが進んでしまっていたら、そこから任意売却に切り替えるための稟議のやり直しなど、内部の規定によって覆すことができない事情が出てくる場合もあります。
そのため、早めに決断するのが大切だということを肝に銘じておきたいものです。
まとめ
- 任意売却とは、ローンの債務が残った不動産を(売ってもローン完済の見込がない状況で)裁判所を介さずに売買すること
- 任意売却をするには、債権者の承諾が必要になる
- 任意売却を成功させるためには、債権者との信頼関係の維持と、任意売却の経験がある不動産業者への依頼が重要