任意売却しないと損?不動産のプロが教える賢い進め方と実際の体験談
「住宅ローンを滞納している、このままじゃマイホームを手放すことになってしまうの?」
「任意売却をすれば、このまま家に住み続けられるって本当?」
さまざまな事情から住宅ローンの返済が苦しくなり、ついには滞納、金融機関から督促状が届いてしまった…。「これからどうすればいいんだろう?」と不安が募る状況です。
そんなときに検討したいのが「任意売却」です。
この記事では、任意売却の基本や進め方、任意売却のメリットとデメリットをご紹介します。
目次
任意売却をしたほうがいい人は「住宅ローンを滞納しそうな人」
病気やケガ、リストラなどによる収入減などさまざまな理由で、住宅ローンを払い続けるのが困難となり、滞納しそうな人は、早めに「任意売却」を検討しましょう。
そのまま住宅ローンを滞納し続けると、マイホームが「競売」となります。競売によって、債権者(金融機関)によって大切な住まいが差し押さえられ、強制的に売却されてしまうのです。

任意売却しないと「競売」にかけられるケースが一般的
通常、住宅ローンの滞納がおよそ3〜6ヶ月続くと「競売」にかけられます。ただし、この期間は金融機関によって異なるので、注意が必要です。
競売とは、住宅ローンの返済が滞った場合に、裁判所を通じて債権者(金融機関)が家を差し押さえ、強制的に家を売却することをいいます。
当然、債務者である家の所有者としては、家は手放すことになりますし、売却価格は市場価格の70%前後にしかなりませんし、それでいて住宅ローンの残債は一括で支払わなければなりません。
競売は債務者にとって、とてもつらい事態といえます。
そうなる前に検討したいのが「任意売却」です。
任意売却なら、有利な点がいくつもあります。
- 市場価格に近い価格で売れる可能性がある
- 近所に知られずに売れる
- 住宅ローンの残債を分割で返済できる
- 引っ越し費用を家の売却金額から融通してもらえる可能性がある
- 任意売却した後の家に住み続けられる可能性もある
- 自分の意思を反映できる余地がある
任意売却であれば、競売に比べて有利な条件で売却を進められ、売却後の生活も守ることができます。
任意売却とは「住宅ローンを完済できない場合の家の売却方法」
任意売却とは、簡単にいうと「住宅ローンを滞納していて、家を売却しても住宅ローンを完済できない」場合の売却方法です。
したがって、家を売却した金額で残りの住宅ローンを完済できるなら、任意売却は必要ありません。
通常、金融機関は住宅ローンを完済してからでないと売却には応じないものです。
しかし、すでに住宅ローンの滞納が始まっている場合は、金融機関の合意を得ることで、住宅ローンが残っている状態でも売却できます。
任意売却後も残ってしまう住宅ローンについては、金融機関との話し合いにより、それまでの返済額以下の額を定め、分割返済していきます。
裏を返すと、金融機関の許可を得られなくては、任意売却はできません。
例えば、住宅ローン滞納時に金融機関とトラブルを起こした、住宅ローンの残債が大きすぎるなどを理由に交渉が難航するケースも考えられます。
なかには「競売以外は受け入れない」とする金融機関もあります。
こうした金融機関との交渉にあたるのは、一般的には弁護士です。また「実際にいくらで家が売れそうか」を調べる査定やその後の売却活動には、不動産会社が関わります。
住宅ローンを滞納しそうなら、任意売却は検討すべき
「もう住宅ローンを払い続けるのは無理だ」。そう思った瞬間から、任意売却を検討すべきです。
「滞納してから」ではなく「滞納しそう」な段階でかまいません。
どんなに遅くとも住宅ローンを滞納して3ヶ月くらいまでに任意売却に向けて動き出しましょう。
というのも、競売の手続きが完了するのは住宅ローン滞納からおよそ6ヶ月後です。任意売却の手続きにも時間がかかるため、モタモタしていると、競売のタイムリミットがやってきます。
ただし、いきなり任意売却を持ちかけるのではなく、住宅ローンの「リスケジュール(リスケ)」の相談から始めるのがよいでしょう。
リスケとは、住宅ローンの返済が難しくなった場合に、金融機関と相談し月々の返済額を減額してもらうことをいいます。
「金融機関にリスケを断られる」あるいは「リスケをしても返済の見込みが薄い」ということになれば、そこから任意売却へと進んでいきます。
なお、最初に相談をもちかける相手は、金融機関ではなく不動産会社がおすすめです。
金融機関と何をどう相談すればいいか、弁護士は必要かなど、任意売却の進め方を教えてもらえます。
また、不動産会社に相談してみると、「普通に家を売却すれば住宅ローンを完済できる」とわかるケースもあるのです。
任意売却をスムーズに進めるための流れ
いざ任意売却はどうやって進めればよいのでしょうか?任意売却をするまでの流れと、任意売却をした後の流れの2つの場面に分けて、解説しましょう。

任意売却をするまでの流れ
先ほども触れましたが、任意売却を検討する場合、最初に相談したいのは不動産会社です。もしくは、任意売却の件数を数多くこなしている専門のアドバイザーです。
通常の売却とは違い、任意売却は金融機関との交渉や法律面の知識が必要です。
しかし、なかには任意売却が専門外の弁護士もおり、「弁護士に任意売却を相談したら、自己破産をすすめられた」など安易な対応をされるおそれもあるのです。
まずは、不動産会社などの不動産の専門家を頼り、金融機関と交渉する内容や、必要であれば任意売却に詳しい弁護士など、アドバイスをしてもらいましょう。
相談するだけなら、不動産会社は無料で応じてくれます。
不動産会社への相談は、2~3社ほど複数の会社に持ちかけるとなおよいでしょう。
提案される内容に共通点が見つかれば、そこが任意売却をスムーズに進めていくにあたってのポイントになるはずです。
不動産会社を決めたら、具体的に任意売却の手続きに入ります。
具体的な任意売却の流れについては、「任意売却を始めて売却するまでの流れと期間」で詳しく解説しています。
是非参考にしてみてください。
任意売却をした後の流れ
任意売却の後に残債となった住宅ローンは、あらかじめ金融機関と交渉して決めた返済計画のもと、分割返済していきます。
ただし、通常の場合任意売却をする際、金融機関が提携している保証会社に債権が移転され、保証会社から補填されます。
そうすると、残債の支払いは保証会社との話し合いになるのですが、この債権をサービサー(債権回収を行う会社)に売却されてしまうと、話し相手はサービサーということになります。
任意売却をして残った債務は、その債権を持っている会社と分割支払いの交渉をすることになります。毎月の返済額は5000円~2万円程度になるケースが一般的です。それまでの返済額よりも低く抑えられるはずです。
任意売却後も返済に苦しむことがないよう、無理のない返済計画を組みましょう。
任意売却のメリットとデメリットは?
ここで、任意売却のメリットを整理しておきましょう。特に競売と比較すると、任意売却のメリットが明らかになります。また、任意売却にもデメリットがあることを忘れずに理解しておきたいところです。

任意売却の6つのメリット
任意売却には主に6つのメリットがあると考えます。以下、1つずつわかりやすく解説していきます。競売と比べると任意売却はメリットが多いといえるでしょう。
1.市場価格に近い価格で売れる可能性がある
競売では市場価格の70%前後で売却されてしまうケースが多いのに対し、任意売却なら市場価格に近い価格で売却できる可能性があります。
その分、住宅ローンの残債も大きく減らせます。
2.近所に知られずに売れる
任意売却の場合、通常の不動産売却と同じように売りに出されるため、「あの家は住宅ローンを滞納している」「競売にかけられそうになっている」などと周囲に知られることなく、家を売却できます。
一方、競売では、売りに出されている物件の情報が新聞などで広く公開されています。
また裁判所や執行官、不動産鑑定士なども家の調査にやってくることから、ご近所などに知られてしまうおそれがあります。
3.住宅ローンの残債を分割で返済できる
売却後に住宅ローンの残債がある場合、競売は一括の返済を迫られます。
これに対し、任意売却なら月額5千円~2万円程度で分割返済できるケースが多いです。
4.引っ越し費用を家の売却金額から融通してもらえる可能性がある
任意売却を行う場合、債務者はそれまで住んでいた家から引っ越しをしないといけません。
この引っ越し費用を最大30万円ほど、金融機関との交渉によって家の売却金額から融通してもらえる可能性があります。
5.任意売却した後の家に住み続けられる可能性もある
投資家や親族に家を買い取ってもらい、賃貸契約を結ぶことで、任意売却した後の家に住み続けられる可能性もあります。
これも競売の場合は許されないことです。
6.自分の意思を反映できる余地がある
競売は裁判所により強制的に執行されるものです。
任意売却なら、「誰に売るのか」「いつ売るのか」「いくらで売るのか」など、家の所有者自身の意思を反映する余地があります。
任意売却の4つのデメリット
そんなメリットもある任意売却ですが、一方でデメリットもあります。任意売却のデメリットについて、4点に絞って解説します。
1.「ブラックリスト」に載る
住宅ローンを3ヶ月以上滞納した時点でいわゆる「ブラックリスト」に載ります。
住宅ローンの延滞情報が個人信用機関に登録されてしまい、その先7年程度は金融機関からの借り入れができなくなります。この点では、競売も任意売却も同じです。
2.連帯保証人の同意が必要
住宅ローンを借りる際に連帯保証人をつけた場合は、任意売却にも連帯保証人の同意が必要です。
3.金融機関の同意が必要
家の所有者である債務者が任意売却を望んでいても、「任意売却しても住宅ローンの残債が多く残る」などを理由にして、金融機関が任意売却に同意しないケースがあります。
4.自己破産を余儀なくされる人も
任意売却をしても、住宅ローンが免除されるわけではなく、残債を返済し続けなくてはなりません。
住宅ローンを滞納する人はほかにも債務を抱えていることが少なくなく、やがて返済負担に耐えきれなくなり、自己破産を余儀なくされるケースがあります。
任意売却にかかる費用は?
任意売却においても、通常の不動産売却と同様に各種費用がかかります。
主な費用は以下です。
- 仲介手数料
- 抵当権抹消費用
- 印紙代
- 必要に応じた測量や解体費用
- 滞納している固定資産税や住民税・管理費など
ただし、これらの費用は、任意売却が成立後、得られる売却代金の中から支払うことになりますので、債務者(家の所有者)が持ち出しで費用を負担することはありません。
また、不動産を売却した際にかかる譲渡所得税なども、任意売却の場合には、売却益が出ない場合がほとんどなので、基本的に非課税と考えてよいでしょう。
ですので、手持ちの資金がないという場合でも、売却活動を安心して進めることができます。
任意売却をした人の体験談
なぜ任意売却を選択したのでしょうか? 任意売却はどうやって進めましたか? 任意売却後の状況はどうなっていますか? 実際に任意売却を体験された方からお話をうかがいました。
【1】20代後半・男性(物件:マンション)
「休職と妻の妊娠が重なり、ローン返済が困難に」
【2】30代後半・女性(物件:マンション)
「市民法律相談で知り合った弁護士のすすめで決意」
一時的に給料が減ってしまったことが住宅ローン滞納の原因です。
しばらく時間稼ぎをしていましたが、やはりどうすることもできなくなり、区役所の市民法律相談に行きました。そこで担当してくださった弁護士さんのすすめで、法テラスを利用して、債務整理手続きを行うこととなりました。
任意売却のことは、弁護士さんに依頼してから知りました。最初は家を売却する気持ちはなかったのですが、これで生活を立て直せると聞き、決意しました。
任意売却によって生活をダウンサイジングでき、借金問題もとりあえずのめどが立ったという点ではよかったのかもしれません。
しかし、もうあのレベルの家に住むことは一生できないだろうなと口惜しい気持ちです。ただ、今では身の丈に合った生活に落ち着いています。
30代後半・女性
【3】30代後半・男性(物件:賃貸マンション)
「リーマンショックが投資用マンションを直撃。任意売却で早期解決を図った」
30代後半・男性
銀行から借り入れし、投資用の賃貸マンションを購入しました。しかし、リーマンショック後は空室が増加、ローン返済が苦しくなり生活にも困窮しました。
つなぎ融資も考えましたが、調べてみても金利がはね上がるだけでメリットなしと判断。次に、テナント誘致を不動産会社に働きかけましたが効果なしでした。「このまま競売に突入するよりは、任意売却で早期解決を」と考えました。
本業も忙しい中、任意売却の手続きや関係者との協議、調整には労力と時間がかかり、精神的な負担が大きかったです。しかし結果的には区切りがついてよかったと思っています。
ただ、売却価格でローンを全額返済できなかったので、今はローンの残債を分割して返済しています。
まとめ
ここまで、任意売却のフローやメリット、デメリットをご紹介してきました。
任意売却は、競売よりも高く物件を売ることができ、売手の意見を反映させられる場合があるので、ローンを滞納しそうになった段階で、視野に入れておくべきです。
売却の結果、残債が免除されるわけではありませんが、無理のないローン返済計画を練られます。
住宅ローンを滞納しそうになったときのために、以下のまとめを覚えておくとよいでしょう。任意売却の可能性を考慮しつつ、冷静に対応できるはずです。
- 「住宅ローンを支払い切れない!」と思ったらすぐに任意売却の検討を
- 任意売却なら無理のない返済計画で生活を立て直せる可能性がある
- 任意売却を思い立ったら、任意売却に詳しい不動産会社に相談を
監修者
井上 徹(いのうえ とおる)
宅地建物取引士・不動産ADR調停人資格・賃貸不動産経営管理士
不動産業界歴30年以上を誇り、(株)フォーリア代表取締役。1999年に資産管理会社である同社を設立し、その後、(株)イエステーション本部の設立参加を経て、現在は(一社)投資不動産流通協会の理事長なども務める。売買仲介から賃貸系事業、不動産資産運用のコンサルティングまで幅広く展開。2016年には賃貸系業務報告書作成プログラムの特許を取得。 ■Webサイト 株式会社フォーリア https://for-real.co.jp/
20代後半・男性
順調に住宅ローンの返済をしていたある日、体調を崩し休職することになりました。同時期に妻が妊娠をしており、住宅ローン滞納で引き伸ばすほかありませんでした。
いよいよ支払いが難しくなった時に、妻がインターネットで「任意売却」という選択肢を見つけ、全国住宅ローン救済・任意売却支援協会に問い合わせました。
任意売却はできましたが、住宅ローンの残債としていまも払っています。