遺産相続〜空き家を引き取ることになった場合の問題〜
「相続」というと思わぬタイミングで多額の遺産が入ってくるラッキーな出来事というイメージもあるでしょうが、その一方で喜ばしくないようなものが自分の所有物になってしまうことがあります。
その中でも不動産は非常に厄介で、住む予定がなく資産価値がないにもかかわらず、管理の負担や税金が容赦なくのしかかってくることもあります。
では、空き家となりうる不動産を相続してしまった場合にどのような状況になるのか、それについての対策はないのかを考えてみましょう。
目次
空き家を相続した場合に想定される問題(周囲への影響や固定資産税・都市計画税)
空き家があることによる、周囲に起こりうる問題
兄弟が皆田舎の実家から東京に出てしまい、誰も家を継ぐ人がいない。これは、少子化が加速する現代では深刻になってきている問題です。そして、特に建物については老朽化による周囲への影響も見過ごせないものがあります。
子どもたちが誰も住まなくても、風を通したり草取りをしたりという手入れをしてくれる人がいればまだよいのですが、全員が手入れに来られる場所に住んでいなかったり、または関わりたくないと思っていたりして手入れをしていないというのはよくある話です。
こうなるとどんどん状況は悪くなります。人が住まない家というのはとりわけ傷みが早く、崩壊などで他人にケガをさせたり、他人の財物を損壊したりする恐れもあります。
また、空き家は放火されやすかったり、ホームレスが住みついたりと安全面、衛生面での影響も深刻なものがあります。
自分たちだけならいざ知らず、他人にケガなどさせて損害賠償を請求されるような事態になったら取り返しがつきません。
不動産の管理にはコストがかかる
こういった実質的な管理の精神的、肉体的負担だけではなく、不動産をもつということはそれだけでコストがかかるものです。代表的な負担が固定資産税や都市計画税でしょう。
なぜ空き家が放置されるのかというと、1つの要因としては「住宅用地」として家が建っている土地については最大で1/6まで固定資産税が安くなるという制度があるからなのです。
つまり、壊してしまえば土地の税金が跳ね上がるから、古くてもそのままにしておけばいいだろうと相続人が安易に考えて古い家を壊さずそのまま放置し、結果的に近くの住民に迷惑がかかるという状況が日本中で起こっています。
よって、こういった要因での空き家をこれ以上増やさないために国も本腰を入れて政策に乗り出しました。
平成26年に成立、公布された「空家等対策の推進に関する特別措置法」の中では、「特定空き家」といって、
- 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
といった形で、危険と隣り合わせだったり、衛生、環境上問題があると思われる建物が定義されています。
このような建物が建つ土地については上記の住宅用地としての固定資産税の軽減を認めないということにしたのです。
なお、特定空き家に該当するかどうかは市町村が実際に立ち入り調査をして判断を行います。
相続した空き家の維持管理や管理費用について
空き家を相続したとすると、居住している、いないにかかわらず固定資産税や都市計画税がかかり、上記に述べたように「特定空き家」に指定されてしまうと税金の軽減を受けられないことになるため非常に重い負担となることがあります。
また、維持管理の内容としてどこまでやるかは用途によりますが、土地であれば草取りをする、建物であれば風を通す、壊れた箇所を適正な状態に修理するなど、最低限他人に迷惑がかからないくらいにはしておかなければならないわけです。
維持管理にどのくらいの費用がかかるかというのは土地や家屋の広さ、構造にもよりますが、もし業者に草取りや庭木の手入れなどを頼んだりすれば1回につき数十万円単位でのお金がかかることもあります。家の修理についても同様です。
火災保険に入る必要性
万一に備えての対策や保険加入も必要です。例えば空き家であっても火災の危険はあるわけですが、火災保険に加入することはできるのでしょうか?
火災保険には「住宅物件」「一般物件」「倉庫物件」「工場物件」といった保険の対象物による区分があります。もし完全に空き家ということになると、加入自体を拒まれる保険会社もあれば「一般物件」として契約できる会社もあります。
ただ、一般物件の場合は保険料が住宅物件より割高になるため、可能なのであれば住宅物件で契約したいものです。もし空き家になってまだあまり長期間たっておらず、今後住居として使用する予定がある場合や住居としての機能が維持できるレベルで管理されている場合は「住宅物件」として契約できることもあります。
ただ、空き家については、失火で近隣への類焼などがあったときのことも考えておかなくてはなりません。居住する物件が失火で焼失し、隣家に類焼しても、法律的には「重過失」がなければ責任は問われません。
しかし、空き家の場合は所有名義をもつ者に「空家等対策の推進に関する特別措置法」における管理責任がありますので、一般の場合よりも責任が重くなることを覚えておきましょう。
また、熊本地震以来、災害で近隣に迷惑をかけてしまうことに対して敏感になる人も多くなっています。ブロック塀が倒れてくる、崩れた瓦が隣の家に落ちてしまうなどの損害もありましたので特に危ない箇所については補強などの措置をしておくことが望ましいでしょう。
住んでもおらず、誰も使っていないところにそれだけのお金を投じることに抵抗を感じる人は多いでしょうが、何か事故があってからでは遅いのです。
見回りサービスの利用
ふだんの防犯上の見回りや管理などは有料でサービスを提供している業者もありますが、将来の売却仲介や買取客を確保することを目的として、不動産会社が格安で引き受ける例もあります。
犯罪の温床になりやすい空き家にはやはり常に人の目があることが望ましいといえるため、自身での管理が難しい人はこのようなものを利用するのも手段の一つといえます。
空き家を相続放棄することはできるのか
いくつかの条件を満たせば空き家を相続放棄することができます。
空き家を相続すると数億円の相続税がかかる場合も
空き家を相続した場合、相続した後の維持管理だけではなく相続そのものを原因とした税負担もあります。それが「相続税」です。
ただ、相続税は全ての家庭にかかるわけではなく、一定の範囲(=基礎控除)を超えた遺産がある場合のみ相続人に課せられる税金です。基礎控除の具体的計算は3000万円+(相続人1人600万円×人数)で計算されます。
例えば、相続人が妻と子ども2人の合計3人だった場合は夫名義の資産や「みなし相続財産」である保険金の合計が4800万円を超えなければそもそも申告義務すらないのです。
不動産の評価方法には路線価が大きな影響を与える
不動産の価格評価の仕方としては、土地は「路線価」といって、税務署の端末やインターネット上で確認できる路線価図というものを使った計算方法があります。
ただ、これには補正を加えたりする作業が必要になるため、正確な金額を割り出すには税務署や税理士に対する相談が必要になります。
建物については「固定資産評価証明書」の評価金額の欄を見ます。具体的に相続税がいくらになるのかは相続する財産の額、相続人の数などによりまったく異なりますが数十万からそれこそ億単位に及ぶこともあります。
条件を満たして空き家は相続放棄をしよう
一方、空き家を相続したくないので相続放棄するということはできるのでしょうか?放棄と一言でいっても、一般の人がこの言葉を使うときには2つの意味に用いられます。
一つ目は相続人の間で「私はこの財産は要りません」という意思表示をする「遺産分割協議」と、二つ目は家庭裁判所に申述して行う「相続放棄」です。
前者(遺産分割協議)については、要らないという意思表示をした財産のみ自分以外の相続人のものになりますので、誰か一人でも空き家を引き受けてくれる人がいれば問題ありません(ただし負債は免れることができません)。
後者(相続放棄)であれば空き家のみならず、預貯金など他の財産もすべて放棄したことになってしまうというデメリットはあるものの、負債も引き受けなくてよいことが大きなメリットといえます。
もし相続放棄しようと思ったら、戸籍謄本など所定の書類をそろえて被相続人(亡くなった人)の死亡から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述書を出さなければなりません。
ただ、もしも被相続人と長年音信不通で死亡の事実を知らなかったり、死亡自体は知っていたが多額の借金があることを知らなかったなどの事情があれば、この3ヶ月という期間は家庭裁判所により伸長されることもあります。
負債が多いときは相続放棄
相続放棄するか遺産分割協議にするかという判断ですが、空き家以外の財産にも目ぼしいものがなく、かえって負債が多いなどという場合は相続放棄すればよいでしょう。
しかし、他に引き継ぎたい財産があって空き家の管理を引き受けてくれる相続人がいる場合は遺産分割協議を検討するのがよいでしょう。
ただ、誰も空き家を引き受けてくれず、協議がまとまらない場合はとりあえず法定相続人全員の共有という状態になっているため、全員に等しく管理義務が生じることになります。
このような状況で放置すればたとえ名義が被相続人のままになっていても他人の財物や身体、生命に損害を与えれば損害賠償を請求される危険性はあるわけです。
もし家庭裁判所で相続放棄手続きを取れば「最初から相続人ではなかったものとみなされる」ことになりますので、空き家を含む相続財産についていっさいの権利義務がありませんから、管理もしなくてよくなりますし、解体する権利や義務(費用負担含む)もなくなるわけです。
なお、遺産分割協議が終わっておらず、名義がそのままになっている不動産であっても固定資産税は相続人に納付通知書がきます。
通常、相続人の中で代表者を指定する届け出を出すように言われるのですが、このとき代表者を出さずに放置すると役所側から決められてしまう形で通知書が発送されます(代表者の決め方は自治体によります)。
相続した空き家を売却する場合にどうすべきか
相続した空き家を急いで売却することはやめましょう。
空き家の相続税評価額を知り、売却すべきか検討しましょう
空き家の相続税については、上記のように土地なら「路線価」、建物なら「固定資産税評価額」で見ることが原則的な考え方です。
例えば居住用の宅地であり、配偶者または同居の親族(申告期限まで居住、所有すること)であれば評価額が最大で330平方メートルまで80%引きになるなど大幅な優遇がされています(小規模宅地の特例)。
急いで売却をする必要がある場合
父親の後で母親が亡くなった(いわゆる二次相続)など、子どもしか相続人がいない場合で子どもが誰も同居していなかったなどの事情であれば、こういった特例措置が使えないことから非常に高い相続税を課せられることもあります。
このような場合、すみやかに売却した方が適切なこともあります。建物は放っておけばどんどん老朽化して価値が下がりますし、土地にしても長期間もっていればその期間の管理費や固定資産税といった出費がかさんでくるからです。
そして、深刻な事情として、不動産が主要な相続財産であったがために預貯金があまりなく、相続税納税資金となる現金が確保できないといったケースもあります。
このような場合、相続税の申告、納税の期限が相続開始後10ヶ月以内であることからも、特に早期に売却して現金化することが求められます。
相続した不動産は、死亡の時点で相続人に権利が移転していますので相続登記を済ませてから売却しなくてはなりません。
この場合は、例えば隣地との土地の境界がはっきりしていないといった問題が浮上してくる危険性もありますので、権利関係があやふやな場合はそれらをクリアにしてから買い手と契約しなければならないことに注意が必要です。
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空き家は一括査定を利用して手際良く売却を
あまりゆっくり準備に時間をかけられないということもありますから、不動産売却の一括査定サイトを使ってまず相場を調べ、選んだ業者に状況を説明してすみやかに動いてもらうことが必要です。
上記の権利関係を整理するために土地家屋調査士、司法書士などの専門家の手を借りなければならないこともありますが、業者に売却の準備を依頼すればこういった専門家と連携して手際良く処理できます。
また、老朽化した建物をそのまま売る、リフォームして売る、更地にして売るなど「最適な売り方」も現場の経験がある業者の方が適切に判断できるといえるでしょう。