空き家を、賃貸物件や宿泊施設として有効に活用しよう
テレビなどでもよく報道されるようになった「空き家問題」ですが、「空き家にしておくことの何が問題なの?」いまひとつピンとこない人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、空き家を放置することで起こるいろいろなトラブル、そして、放置されている空き家を活用する具体的な方法には、どのようなものがあるのかを考えてみましょう。
目次
近年問題となっている、誰も住まない、活用もされない「空き家」
現在、日本国内に空き家はどのくらいあるのでしょうか。総務省の「住宅・土地統計調査」によれば、平成30年の時点で848万9千戸です。住宅総数の中で、実に13.6%が空き家というデータがあるのです。
空き家の放置による周囲への影響
この空き家の総数のうち、別荘などの「二次用住宅」や「賃貸用住宅」、そして「売却用住宅」を除く「その他の住宅」に分類される空き家は348万7千戸となっており、この20年間を見ると約1.5倍に膨れ上がっています。
子どもの数の減少にともなって、親が購入した家に戻って住む子どもがいないということや、求められる住宅の質、内容が変わってきたという「社会的なニーズの変化」も原因に挙げられるでしょう。
空き家を放置すると地域の治安が悪くなる
このように放置された空き家によって起こり得る問題にはどのようなものがあるか、考えてみましょう。
まず、深刻かつ切迫している問題といえるのが安全面です。
老朽化した建物は倒壊や壁の崩落などの危険を常に抱えており、隣近所はもちろんのこと、家に面した道路を通行する人にとっても危険な状態になっているケースがしばしばあります。
次が防犯面です。ホームレスや不良少年の不法侵入によるたまり場になりやすいことに加え、空き家というのは放火犯に狙われやすいともいえます。
不法投棄問題が発生する
さらに衛生面でも、空き家やその土地に対してはゴミの不法投棄の問題も各地で起こっており、悪臭に悩まされる住民もいるのです。
そこで、空き家を放置することの周囲への影響も考え、地方自治体でもあまりにもひどい事例については所有者を探してコンタクトを取り、管理を促すなどの対応をしています。
しかし、なかなか所有者が見つからない、見つかっても本人たちに当事者意識や危機感が薄い、相続人が多数いて全員の同意が取れないなど、地方自治体に任せるだけでは限界がある事例も出てきています。
空き家対策の法律が成立
国でも決して手をこまねいているわけではなく、空き家問題について本腰を入れて対策をする必要性を認め、平成26年に臨時国会において「空家等対策の推進に関する特別措置法」が成立し、公布されました。
この法律では、空き家を「空き家」と「特定空き家」の2つに分類して考えます。
「空き家」というのは、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地」とされています。
建築物そのものだけではなく、敷地内の工作物や立木なども対象に含めています。
また、「特定空き家」というのは、「放置することが不適切な状態にあると認められる空き家等」とされています。具体的には、以下のものが挙げられます。
- 倒壊など、著しく保安上危険となるおそれのある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われないことにより、著しく景観を損なっている状態
- その他、周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
この法律の中で、空き家の所有者に対しては、「周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、適切な管理に努める」とされ、市区町村に対しては「空き家等に関する対策についての計画の作成及び対策の実施等を適切に講じるよう努める」とされています。
つまり、第一に責任をもつのはもちろん所有者であり、彼らが自らの責任で的確に対応しなければならないとしています。
しかし、所有者などが経済的な事情で空き家の管理を十分に行えないときなどには、住民にとって一番身近な行政であり、その空き家の状況を把握できる立場にある市区町村が対策を実施することが重要だと考えているのです。
行政が強制的に取り壊しを行うことができる
とりわけ生活環境を壊していると考えられる「特定空き家」については、市区町村長に一定の権限を与えています。
市区町村はその所有者などに対して「除却、修繕、立木竹の伐採等の必要な措置を取るようにまず助言・指導を行い、助言・指導によって措置がされない場合は勧告、さらには命令へと段階的に手続を進めていくこと」が義務づけられています。
そして、命令を受けたものが必要な措置を行わないときは、「行政代執行」が可能とされています。
行政代執行とは、行政側の命令を無視して従わない者に対し、行政が自ら業者に依頼などして必要な措置を取り、その費用を所有者などに請求するという方法です。
つまり、今にも倒れそうになっているような倒壊寸前の空き家を壊さずに放置している場合に、所有者が行政による取り壊しの命令を聞かなければ、行政が強制的に取り壊せるということなのです。
放置するくらいなら、空き家を有効活用しよう
空き家を放置しておくと、さまざまな問題があるということは理解できたと思います。
しかし、これを実際に活用しようとすると、どのように計画、実行すればよいのかという疑問が生じてきます。
空き家を活用するための情報収集や相談
空き家活用の相談先はいろいろとあります。例えば、市役所などの行政、弁護士や司法書士などの法律家、不動産会社などです。
また相談しやすいところとなると、空き家問題に取り組んでいるNPO法人や不動産会社でしょう。
こういったところでは空き家活用セミナーを開催している場合もあるので、まずは予備知識をつけることから始めるのもいいかもしれません。
もし事業として何かを行うのであれば、融資を受けることが必要な場合もあるので、やはり収支計画書などをきちんと作成して、採算性を考えたうえで始めたいものです。
空き家の活用例1:賃貸物件として活用する(改修費用や必要書類)
もし物件をほぼそのまま、あるいは少しリフォームを加えて賃貸に出そうとする場合、どうすればよいのでしょうか。
不動産を賃貸する場合、費用さえ払えば管理などの多くの作業を外注することができますが、それらを紹介してくれるのは、最初に依頼をした不動産会社でしょう。
そのため、どの会社を選ぶかというのはとても大切なことです。
まずは賃料査定をしてもらい、自分の物件の賃貸相場がいくらくらいなのかを把握しなくてはなりません。
こういった査定については、一括査定サイトを利用するとより手軽に相場を知ることができるでしょう。
大家となる準備をする
近隣相場や物件の特徴から出される適正価格というものがあるので、あまりにも相場より高い金額を提示してくる会社は逆に注意した方がよいでしょう。
また契約にあたっては、反社会的勢力に対する規制が強くなっていることから、大家側の本人確認を厳しくしている不動産会社があります。
大家側に対して、印鑑証明書などで確認する会社は当然あると考えておくのがいいでしょう。
なお、契約書については不動産会社のフォーマットがあるので、大家側では特に準備する必要はありません。
自分の家を貸すにあたって、一人(一世帯)に貸す方法の他、シェアハウスとして何人かに貸し出す方法もあるでしょう。
また、店舗用に改装することも考えられます。
もともと家が広くて立地もよく、部屋数が多い場合はシェアハウス向きといえるかも知れません。
シェアハウスとしての貸出
ただ、シェアハウスや店舗にする場合、改装費用がかかる他、シェアハウスであれば住民どうしのトラブルなどの可能性が高まること、店舗であれば業態によっては火事などの危険性が出てくることも考慮しておかなければなりません。
賃貸にする場合、借り手さえつけば毎月の収入がコンスタントに入ってくるというメリットはあります。
しかし、固定資産税や修繕費などが貸主の負担になってしまうこと、借主の審査をしっかりしないと何か起こっても簡単に退去させられないことなどがデメリットとして挙げられます。
最低限水回りの掃除を行う
どのような形で貸し出すにせよ、初期段階で最低限、水回りなどの設備の利用に不備がないように修理や交換をしておく、荷物を置きっぱなしにしない、清掃を念入りにするなど、「貸せる物件」として整えておくことが必要です。
リフォームするとしたらいくらくらいになるかというのは、どこまで手を入れるかにもよります。
一世帯に貸すということであればそれほど手を入れなくてもよいので、10万円から20万円程度で済む場合もあります。
しかし、シェアハウスへの改装や店舗への改装となると、費用が数百万円になることがあるので、銀行などから融資を受ける必要が出てくるかもしれません。
最近では、「借主負担DIY型」という貸し方もあります。
これは借主が自分で、あるいは業者に依頼して、入居するときや入居後の修繕などをするという契約の方法です。
主要な構造部分の修繕は貸主の負担となりますが、それ以外のものは原則、借主が負担します。
改修した部分については、退去の際にもとに戻す必要はありません。
借主の負担が増える半面、家賃は低い水準になっています。
空き家の活用例2:宿泊施設や民宿として活用する(改修費用や必要書類)
立地や面積の条件が合えば、施設や民宿として活用する方法もあるでしょう。
もし不特定多数の人から報酬をもらって反復、継続して貸すということになれば、「旅館業」を営むための届出が必要になります。
旅館業の届出書は役所に備え付けてありますが、添付書類としてはその物件の見取り図、建築基準法の検査済証、法人化して行う場合は会社登記がされた登記事項証明書などが必要になります。
地方自治体ごとに若干異なる場合もあるため、電話や窓口で確認が必要です。
宿泊施設にする場合、空き家から改修する際に数百万から1千万円単位の費用がかかることも想定されます。
恵まれた立地であるなど、条件が整えばそれなりに収益が出ることもありますが、やはり不特定多数の人が出入りするという意味で、危険と隣り合わせの部分もあるのです。
最近では「民泊」が人気となり、外国人などの宿泊も増えていますが、日本との文化の違いでこちらが想定していなかったような事態になることも考えられ、そういったときの対策もしておかなくてはなりません。
空き家の活用例3:空き家を解体して駐車場にする(解体費用や必要書類)
空き家自体を解体し、更地にしたうえで土地を活用する方法もあります。代表的なのが駐車場です。
まず、建物の解体自体に費用がかかりますが、木造一戸建てでも100万円から200万円程度は必要だと思っておいた方がよいでしょう。
ただし、構造や立地によっては、それ以上となることもあります。
そして、肝心の駐車場ですが、5台から10台ほど駐車できるスペースに機械を設置するための初期費用が、300万円くらいとなっています。
もちろん、これ以外に、その後の管理費用もかかるものの、幹線道路沿いなどの車が入りやすい立地であれば、かなり安定した収入になることもあるようです。
500平方メートル以上の駐車場を経営する場合、駐車場法に基づく届出が必要で、駐車場の設置場所、周辺道路の図面や管理規程などを市区町村に提出することになります。
また、更地にした土地を利用する方法として他に考えられるのは、コミュニティスペースや文化施設、移住者向けの体験住宅などが考えられるでしょう。
ただし、公共性の高い施設になると、ある程度面積に余裕が必要になることはいうまでもありません。
空き家の活用を目的とした補助金・助成金制度
地方自治体によっては空き家の活用に対して助成金を出してくれるところもあります。
空き家の活用への補助金で負担が軽減できる
全国の空き家の1割が集中する東京都では、空き家活用に対して助成金を出す政策を打ち出しており、令和元年度には2.8億円規模の予算を計上しています。
内容としては、実際に各市区町村で取り組んでいる空き家活用対策に対し、都が助成金という形でサポートするというものです。
具体的に助成金が支給されるのは、空き家の実態調査、空き家対策を定める計画の作成、空き家の改修工事への補助といったケースになります。
また、空き家活用モデル事業を行う起業家への助成金交付や空き家活用のための普及啓発や相談を行う民間事業者に対する補助金交付を行っています。
今後は国からのバックアップを受け、東京都以外でも同様な取り組みが増えていくと思われます。
- 放置された空き家によって、安全面・防犯面・衛生面の問題が発生する
- 「特定空き家」とは、放置することが不適切な状態にあると認められる空き家などを意味する
- 空き家は、賃貸物件や宿泊施設、駐車場などとして有効に活用することが可能